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「レーベル病について」大阪市今福鶴見にある眼科・皮フ科 みらい眼科皮フ科クリニック

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「レーベル病について」大阪市今福鶴見にある眼科・皮フ科 みらい眼科皮フ科クリニック

論文紹介-004 レーベル病について

みらい眼科皮フ科クリニック院長 石川裕人です.

論文紹介のページでは、日々発表されている眼科に関する英文論文の中で、石川が特に興味を持った論文を皆さまにかみ砕いてお知らせする企画です。

 

今回は「レーベル病」についてのお話です。

レーベル病というのは、簡単にいうとお母さんからの遺伝によって、視神経が傷んでしまう病気で、レーベル遺伝性視神経症(LHON; Leberʼs hereditary optic neuropathy)とも言います。多くの方は、20歳未満という若い時に、両目の急激な視力低下で発症します。男性が発症するのが9割以上と圧倒的に多いのもこの病気の特徴です。確定診断には遺伝子検査が必須で、この病気ではミトコンドリア遺伝子変異が認められます。代表的な遺伝子変異は3パターンあり、11778, 14484, 3460のミトコンドリア遺伝子に変異がある方が全体の95%を占めます。本邦での疫学調査は、神戸大の上田先生、中村教授が調べておられますが、

Nationwide epidemiological survey of Leber hereditary optic neuropathy in Japan. Ueda K, et al.  J Epidemiol. 2017, 27(9):447-450.

原著論文

2014年のLHON新規発症は100人程度で、患者総数は約4000人と推測されています。日本国民は今1億2千6百万ですから、非常に珍しい病気というのが分かると思います。

当院では、兵庫医大から私が診ていたLHONの患者さんが結構ついてきてくれましたので、みらい眼科では大体40人ほどのレーベル病患者さんを診ております。

 

さてこのレーベル病ですが、治療はどうなっているのでしょうか?

実はまだ、2021年現在で、本邦で認められている治療法・治療薬はありません。世界においては、2011年にイデベノンというお薬の多施設ランダム化試験(Rescue of Heredity Optic Disease Outpatient Study: RHODOS)が行われました。簡単にいうと、レーベル病患者に対してイデベノン投与を行い、その結果を報告した研究のことです。その結果、2015年、イデベノン(商品名:Raxone 【ラクソン】)はヨーロッパで認められました。世界的にもこのラクソンしか今のところレーベル病治療薬として認められていません。

A randomized placebo-controlled trial of idebenone in Leber’s hereditary optic neuropathy. Klopstock T, et al.  Brain, 2011, 134: 2677-2686.

原著論文

 

この報告を受けて、三村治先生指導のもと、兵庫医大において、20132015年に日本人レーベル病患者に対し、イデベノンを投与して効果があるのか、はたまた副作用はでるのか、その有効性を調べる研究をいたしました。

Characteristics of Japanese patients with Leber’s hereditary optic neuropathy and idebenone trial: a prospective, interventional, non-comparative study. Ishikawa H, et al. Jpn J Ophthalmol, 2021. 65(1):133-142.

原著論文

イデベノンはユビキノン(コエンザイム Q10)から派生した合成物質です。1980年代に、アバンという名前で脳代謝改善薬として武田製薬から発売されたお薬で記憶にあるかたもいらっしゃるかもしれません。その後、アバンは日本から消えてなくなりましたが、ヨーロッパの会社で改めてミトコンドリア病への有効性が認められて、ラクソンとして発売されました。上記論文は、日本人レーベル病患者57名へのイデベノン大量投与療法(900㎎/日)の臨床研究を行い、約3割の症例で視力・視野改善を認めました。特に若くしてレーベル病になった人に、イデベノンの効果が現れやすい傾向があり、ある10代発症の患者さんでは(イデベノン投与は発症から50年以上たった60代)、イデベノン投与後視機能の回復を認めることもありました。ただし、この研究ではプラセボ群(偽薬投与群)がなかったため、厳密にはイデベノンが日本人LHON患者さんに対しての有効性を認めたものではありません。レーベル病のような希少疾患では、偽薬を投与するだけの患者さんの数が十分でなかったので、このような研究プロトコールになってしまいました。幸い、全例で明らかな有害事象、イデベノンの副作用といったものはありませんでした。

 

今現状で、レーベル病と診断された方はどうしたらいいのでしょう。

正直、完全にエビデンスのある治療法はありません。上記イデベノンで効果がある人がいるのも事実ですが、必ず効くわけではありません。

まして、ヨーロッパで認可されたイデベノン、商品名:ラクソン を入手することは非常に困難ですし、仮にできたとしても半年分で600万円かかるとも言われ、現実的ではありません。イデベノン含有サプリメントであれば個人輸入等で買うことはできますが、いわゆる薬剤ではないため投与効果・副作用含めて自己責任になります。当院でかかってる患者さんの中には、イデベノンを自己購入し、副作用等は当院でチェックしてる人もいます。

 

イデベノンのほかには、神戸大学で電気刺激療法というのを臨床研究でされています。簡単に言うと、皮膚に電極をつけて視神経に電流を流し、視神経再生を促すというものです。ビリビリ関電するようなものじゃありませんので心配なさらないでくださいね。

Protocol to test the efficacy and safety of frequent applications of skin electrical stimulation for Leber hereditary optic neuropathy: a single-arm, open-label, non-randomised prospective study. Ueda K, et al. BMJ Open. 2021, 11(10)

原著論文

ただ、この電気刺激も全例治るといったものではなく、イデベノンと同様、効く人には効くという側面は否めません。積極的にお願いしたいのですが、装置の数があまりないらしく、うちからお願いした人も2年以上先になるとのことでした。

 

一番希望の持てる治療は、根本治療である遺伝子治療です。といっても遺伝子治療はアメリカと中国でまだ治験中です。またとある筋からの情報ですが、現状、コストが一人当たり9000万円以上だそうです・・・・ 日本で展開可能な金額なんでしょうか・・・・

 

レーベル病をはじめとして、まだまだ治らない病気というのは数は少ないかもしれませんがあります。そういう病気に対して、世界中の研究者が研究しています。いつの日か治る日が来ればいいのですが、今現在どうするか、それが問題です。

 

そのために、ロービジョンケアという分野もございます。簡単に言えば、見えなくなったが、残った視機能でなんとか生活や仕事をうまくできるようにするといった感じでしょうか。

長くなってきたので、そこらへんはまた別の機会にお話ししましょう。

 

院長 石川裕人

大阪市「今福鶴見」にある眼科・皮フ科

みらい眼科皮フ科クリニック

当記事は院長石川の個人的見解であり、絶対に紹介した記事や論文等が正しいというわけではございません。

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