三村治のやさしい神経眼科講座 その2 甲状腺眼症
- 2021年4月3日
- 三村治先生の神経眼科講座,神経眼科,症状
ボツリヌス治療、神経眼科外来担当の三村治です。
今回は「甲状腺眼症」についてお話します.
内科では「バセドウ眼症」あるいは「バセドウ病眼症」とも言われています.しかし,甲状腺機能が活発になる「バセドウ病」だけでなく,逆に甲状腺機能が低下する「橋本病」でもみられます.これらの疾患は,実際には「甲状腺に対する自己免疫疾患」(自分の身体の免疫系が自分自身の正常な細胞や組織(今回は「甲状腺」)に対して間違って攻撃をしてしまう疾患)と考えられています.この病気で標的となる組織は,眼窩脂肪(目のまわりの脂肪)と外眼筋(眼を動かす筋肉)で,これらの組織が攻撃を受けると炎症を起こして,組織がはれていきます(炎症性肥大).
最初はうわまぶたのはれ(上眼瞼腫脹)や三白眼(上眼瞼後退症:あたかも歌舞伎役者のように,うわまぶたが釣りあがってしまって,うわまぶたと黒目の間に白目が出る状態)でみられ,その後に目が飛び出たり(眼球突出),物が2つに見える(複視)や斜視が出てきます.最重症では腫れあがった目を動かす筋肉が視神経を圧迫して見えなくなる圧迫性視神経症を起こすこともあります.症状には日内変動があり,毎朝起床時に一番症状が強く,日中はましになることが多いです.
なぜ,「甲状腺」の病気なのに,目のまわりの組織が攻撃をうけて腫れるのでしょうか? 我々のからだの臓器には,それぞれをあらわす表札みたいなものがついています.「甲状腺」は当然,「甲状腺」という表札を持っており,「甲状腺に対する自己免疫疾患」では攻撃を受けます.面白いことに,眼窩脂肪(目のまわりの脂肪)と外眼筋(眼を動かす筋肉)の表札は「甲状腺」の表札と非常に似ているために,我々のからだはうっかり間違えて「甲状腺」のみならず,目の周りにも攻撃をしてしまいます.そして結果として,目の周りの組織が炎症ではれて,先にお話した様々な症状がでてきます.
治療は間違って攻撃しているという自己免疫を抑えるために,免疫を抑える作用があるステロイドホルモンの全身または局所投与が中心です.「甲状腺眼症」の重症者の多いヨーロッパでは,専門家が集まってEUGOGOというグループを作り,診療ガイドラインを作っています.日本でも私(三村 治)が参加した日本甲状腺学会・日本内分泌学会編集の「甲状腺眼症–診療の手引き–」を作成しています.両者とも最重症~中等症(活動期)ではステロイドホルモンの点滴(日本では入院のうえ3日間連続点滴,その後4日間休薬,再度3日間点滴,海外では週1回点滴を12週連続)を行います.ただ,若年者から中年以降まで女性の多くにみられる軽症および中等症(非活動期)では,ステロイドの全身投与は行いません.最近これらの患者さんでは月1回の局所注射で軽快することが報告されています.みらい眼科皮フ科クリニックでもこの注射を行っていく予定です.最近上眼瞼が急に腫れてきた,あるいは上眼瞼が上に上がって三白眼が目立つようになった方も是非受診ください.
もう一つの症状である斜視では内斜視(最初は遠方で2つに見える),あるいは下斜視(上を見ると2つに見える)がみられます.この場合は,A型ボツリヌス毒素(ボツリヌストキシン)を内直筋または下直筋に注射することにより2-3か月眼の位置を改善することができ,手術する比率を従来の半分に減らすことができます.この治療も10分以下で行うことができ,みらい眼科皮フ科クリニックでも行う予定ですので,遠慮なくご相談ください.
ボツリヌス治療・神経眼科外来担当 三村治
大阪市「今福鶴見」にある眼科・皮フ科
みらい眼科皮フ科クリニック
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