三村治のやさしい神経眼科講座 その15 不思議の国のアリス症候群について
- 2023年6月17日
- 視神経炎,三村治先生の神経眼科講座,神経眼科,症状
ボツリヌス治療、神経眼科外来担当の三村治です。
不思議の国のアリス症候群
今日はかなり珍しい病気ですが,児童文学者ルイス・キャロルの著書「不思議の国のアリス」にちなんだ名前の「不思議の国のアリス症候群」のお話をさせていただきます.この病気の患者さんは,アリスが不思議の国に行ったときと同じように,見たものの大きさや自分の身体の大きさが,普通の世界とはサイズが違って見える不思議な現象を経験します.この患者さんは眼には何の異常がないにもかかわらず,患者さん自身は自分の身体や対象物のサイズが大きく感じられたり(大視症),逆に小さく感じられたり(小視症)します.それら以外にも,ものが歪んで見える変視症(網膜の病気でも起こりますが性質が違います)や離人症・空中浮遊体験(ともに自分の身体から自分の心が離れる経験をする)などいろいろなバリエーションがあります.私の経験した患者さんは、そのような典型的なものではありませんが,やはり本症候群の範疇にはいるものではないかと考えています.
その患者さんは両耳側半盲といって,頭の中の病気で右眼も左眼も耳側半分のみが見えて,鼻側は両眼とも見えなくなってしまう病気でした.両耳側半盲の患者さんも特に生活に支障なく暮らせるのが普通なのですが,その患者さんは右眼で見た視野の大きさと左眼で見た視野の大きさが全然違うという不快感を訴えられました,しかもその耳側半分の視野が別々の空間にあって,1つにすることができないと言われます.私は左右の眼の位置がずれてものが2つに見える「両眼複視」の専門家ですので,プリズム眼鏡で両眼の視線を合わせようとしたり,両眼の不等像視の検査(左右の像の大きさの違いを測定する)をしたりしましたが、全くレベルが違うようでお話にならないとおっしゃいます.結局,脳への一種のウィルス(EBウィルス)の感染か,高次視覚野(五次ともいわれる)の異常でしょうというだけの私の説明には,患者さんはあまり納得されずに帰ってしまわれました.
ただ,日本や海外の報告をみていますと,この症候群は前にこのコラムで紹介した「visual snow症候群」とよく似たところがあります.両疾患とも視覚症状があるにもかかわらず,患者さんの眼には全く異常がない点,また,これらの患者さんでは片頭痛やその前兆である「閃輝性暗点(視野の一部がギザギザ縁どられるように光り,その後徐々に拡大して消えてしまう)」の合併が他の人よりはるかに多い点,その病気になっても患者さんは黙っているために実際には患者さんの数を過小評価していると思われる点などです.ただ,大きく異なるのは「visual snow症候群」は一生治らないのに,本症候群は小児から思春期の発症であれば,軽快または消失することもある点です.
私が眼科医になってすぐの時に,私の師匠に当たる初代の眼科教授から,上下左右が逆に見える患者さんがいるのを知っているかと尋ねられ,てっきり冗談を言われたのだと思いましたが,念のため調べると英語の本に本症候群のことが書いてありました.未だに何故本症候群が起こってくるかは不明のままですが,機能的MRIなどが急激に進歩していることから,本症候群においても病態解明が進み,治療法も出てくるのではないかと考えます.もし,ご家族の方がそのようなことを言われても,変なことを言ってるとは考えず,みらい眼科皮膚科クリニックの三村治まで受診していただければ幸いです.
ボツリヌス治療・神経眼科外来担当 三村治
大阪市「今福鶴見」にある眼科・皮フ科
みらい眼科皮フ科クリニック
当記事は三村治の個人的見解であり、紹介した記事や論文等が絶対に正しいというわけではございません。
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