三村治のやさしい神経眼科講座 その8 視界が砂嵐に覆われるビジュアルスノー症候群について
- 2021年10月9日
- ビジュアルスノー,三村治先生の神経眼科講座,神経眼科,症状
ボツリヌス治療、神経眼科外来担当の三村治です。
今回は「ビジュアルスノー, visual snow 症候群」についてお話します.
先日卓球選手で金メダリストの水谷隼選手が「ビジュアルスノー, visual snow 症候群」が原因での現役引退を発表されました.といってもほとんどの方だけでなく,ほとんどの眼科医ですら「えっ,何?」と怪訝な顔をされると思います.実は1995年に初めて海外で「ビジュアルスノー」という症状名が発表され,2014年にようやく「ビジュアルスノー症候群」の診断基準(これだけの条件を満たした場合にその症候群と診断して良い基準)が発表された症候群で,特に患者さんの自覚症状が病気の名前となった非常に新しい病気です.
ビジュアルスノーという症状は,視野全体に雪が舞うように見えたり,無数のモノクロのドットが砂嵐のようにちらつく現象で,視野全体がテレビのホワイトノイズを通して見ているように感じられます.それが24時間365日ずっと続くわけですから,患者さんたちの見え方の鬱陶しさや苦痛はプロの卓球選手でなくとも大変なことと思われます.
また,この病気の発見が遅れた1つの理由は発症時期にもあります.この病気は小児から若い方に多く,物心ついた頃にはすでにこの症状を自覚していた,つまりその症状が当たり前であった患者さんが,多いものでは半数にもなることです.今現在は国際的にも稀な病気とされていますが,実際には症状があっても自覚のない患者さんの多い,もっとポピュラーな病気ではないかと個人的には考えています.
この病気が発表された2014年以降,原因や治療法に関して非常に多くの研究が発表されています.しかし,まだどのように発症しているか,どのような治療法があるかは未だ解決されていません.ただ,合併しやすい病気として耳鳴りや片頭痛があることから,視覚の感受性が高まって起こっているのではないか(視覚の耳鳴りと呼ぶ人もいます)と考えられています.また,治療法がないとされていますが,いくつかの内服薬では軽減効果があるとされ,水谷選手も使われていた遮光レンズ(単に光を遮るサングラスではなく,特定の波長だけを極端に減らすレンズ)眼鏡も有効とされています.私も特にこの病気で眩しさ(羞明)を強く訴える患者さんでは効果があると感じています.
この病気が発表された初期はさまざまな眼の不調の自覚症状のみが強調されたため,ビジュアルスノー症候群は心因性ではないかと疑われていましたが,今や心因性のものではなく本当の生理学的異常と考えられています.また,患者の苦痛の割に医師の理解や認知が進んでいないことから英国のThe Visual Snow Foundationや米国のThe Visual Snow Initiativeなどの非営利団体が積極的にこの疾患の認知に向けた活動を行っています.ただ,後者のHPは,最近かなり怪しげな全く論文発表のない2人の非医師の視能訓練士の提唱するエクササイズ療法(私は眼球運動の専門家でもありますが,全く根拠のない療法と考えます)に囚われていますので,お薦めしません.
重要なことは,もしこの病気で悩んでいてもまず絶対に失明せず,進行もしないことを理解することです.また,多くの論文に書かれているように,その症状のことをくよくよ思いわずらうのではなく,できるだけ他の楽しいことに気を逸らせるようにして生活することが重要です.そのうちにきっと良い内服薬が開発されるでしょう.
このような症状に心当たりがあれば,是非当院の三村治または石川院長に遠慮なくご相談ください.
ボツリヌス治療・神経眼科外来担当 三村治
大阪市「今福鶴見」にある眼科・皮フ科
みらい眼科皮フ科クリニック
当記事は三村治の個人的見解であり、絶対に紹介した記事や論文等が正しいというわけではございません。
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