論文紹介-010 眼内レンズ強膜内固定後の嚢胞様黄斑浮腫発生について
正秋会理事長 みらい眼科皮フ科クリニック院長 石川裕人です.
論文紹介のページでは、日々発表されている眼科に関する英文論文の中で、石川が特に興味を持った論文を皆さまにかみ砕いてお知らせする企画です。
眼内レンズ強膜内固定後の嚢胞様黄斑浮腫発生について~多施設後ろ向き研究の結果~
久しぶりの論文紹介のコーナーです。
今回は私が筆頭・責任著者の眼内レンズ強膜内固定後の嚢胞様黄斑浮腫発生についての論文のご紹介です。
兵庫医大常勤の頃から、日本臨床網膜研究会(Japan Clinical Retina Study group;J-CREST)の一員として、多施設臨床研究に従事してまいりました。J-CREST参加施設の先生方がテーマを検討し、またデータを出し合い、いろいろな研究・論文発表がなされています。
この眼内レンズ強膜内固定後の嚢胞様黄斑浮腫発生の仕事も、その一つです。
論文の話を進める前に、眼内レンズ強膜内固定? 嚢胞様黄斑浮腫?というのはどういったものなのか説明します。
眼内レンズ強膜内固定というのは、白内障手術の方法の一つです。通常の白内障手術は、水晶体超音波乳化吸引法+眼内レンズ挿入術と言われるものです。水晶体の中身の濁りを取り除いて、残った袋(水晶体嚢)の中に眼内レンズを折りたたんでいれるというのが今現在広く行われている一般的な白内障手術の方法です。
この水晶体の状態が普通でない場合、例えば水晶体をぶら下げているチン小帯という筋肉が切れている場合(チン小帯断裂)や昔に白内障手術を受けたのだけども、眼内レンズがこの袋ごと(水晶体嚢)ずれている、もしくは落ちているといった場合、袋がないのにどうやって眼内レンズを目に固定するのでしょうか?
袋がないので直接眼内レンズを目に固定するしか方法はありません。この方法は大きくわけて2つあり、古典的な方法とも言えるのが眼内レンズ縫着術、新しい方法として、2014年に山根先生が開発された眼内レンズ強膜内固定というものになります。
端的に申し上げて、前者の縫着術は眼内レンズの足に糸をくくりつけて縫わないといけなという煩雑さがあり、後者の強膜内固定は慣れてしまえば手技が比較的簡単です。なので昨今は、私も含めて縫着術では強膜内固定を選択することが圧倒的に多いと思われます。
ただ、そんな中、術後に嚢胞様黄斑浮腫を経験することが多くなってきました。嚢胞様黄斑浮腫は網膜の中心にあたる黄斑に炎症性の水ぶくれを起こすことで、視力が低下します。通常、網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症に併発することの多い病態ですが、術後の嚢胞様黄斑浮腫も古くから知られており、それを予防するために白内障術後に非ステロイド系抗炎症薬の点眼を1–2ヶ月していただいています。
強膜内固定は簡便だけれども、実は術後嚢胞様黄斑浮腫の発生が多いのかも?といった疑問が今回の研究の背景となっています。
対象はJ-CREST参加施設にて眼内レンズ縫着術(52眼)または眼内レンズ強膜内固定(155眼)をうけた症例です。
要約しますと、眼内レンズ強膜内固定を受けた患者さんの13.0%に術後3ヶ月で嚢胞様黄斑浮腫を認めました。一方、眼内レンズ縫着術ではわずか1.9%であり、有意に強膜内固定の方が術後嚢胞様黄斑浮腫の発生率が高いという結果になりました。ただし、術後3ヶ月における視力に関してはどちらのグループが良い、悪いといった差はありませんでした。
では、なぜ強膜内固定で術後嚢胞様黄斑浮腫の発生が高くなったんでしょうか?
そこで、強膜内固定を受けた患者さんの背景を調べることにしました。端折りますが、統計手法を用い、4つの因子が関係していることがわかりました。すなわち、①手術時間が長い、②偽落屑症候群(緑内障の一種)がある、③術前角膜内皮細胞数が少ない(前の白内障手術になにかトラブルがあった?)、④術後の一時的な低眼圧になります。
最終的に強膜内固定は簡便であるが、術後嚢胞様黄斑浮腫の発生が約1割にあるので、注意して術後見ましょう、もしくは術後の点眼を長くいれましょうということになります。眼内レンズ縫着術を見直す良いきっかけにもなった論文ですが、筆者である私含めて今更強膜内固定を眼内レンズ縫着術に戻すことはないのかなぁというのが実際のところです。
医療法人正秋会 理事長 石川裕人
大阪市「今福鶴見」にある眼科・皮フ科 みらい眼科皮フ科クリニック
守口市 川口眼科醫院
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